第五話
近頃、イースターエッグという可愛らしい祭りのイベントが世界中に広がってきた頃。
ここ、ぐるみぃたちの間でも密かに話題になっていた。
「つぎはぎうさぎさん、このぐるみぃの街でもイースターする?」
「ああ、そうだな。みんな話題になってるしね」
がんたいねことつぎはぎうさぎが話していると、くまみが材料を持ってどこかへ向かっている途中だった。
「くまみちゃん、これからどこへ」
がんたいねこがそういうと、くまみが首をかしげる。
「ハリソコさんとフクネズミちゃんと一緒にイースターに使う卵を色付けするから手伝いにって・・・」
ハリソコとフクネズミは前にぐるみぃの街へ引っ越してきた女の子の二人組のぐるみぃだ。
ハリソコは明るくて関西弁でしゃべるハリネズミの女の子。
フクネズミはハリソコの相棒で、フランス語を交えてしゃべる女の子。
二人はもともと、犬や猫のペットのぬいぐるみだったため、使えずに捨てられ、ぐるみぃになったのだ。
「そっかー、僕らも手伝いに来ていいかな」
「うーん、でも女の子だけで集まりたいっていうから・・・」
くまみが残念そうにいうと、つぎはぎうさぎは頷いた。
「そうか。それにしてもハリソコさんとフクネズミさんが来てから、くまみちゃん、最近へろくまさんと遊んでないな」
確かにへろくまはくまみの兄だが、最近一緒にいるところを見ていない。
「お兄ちゃんがね、やっと女の子のぐるみぃがやってきたから、この子たちと遊んだらどうだっていうから・・・、お兄ちゃんも私がハリソコさんたちと話をしてたら、表情が柔らかくなったって」
「えっ。あのへろくまさんが・・・?」
そういえばへろくまはあれ以来、暗い顔をして変なことを言ったりしてなかったような・・・そんなことを思い出した。
「そ・・・それは嬉しいことだが・・・さびしいな・・・いや、いい。何かあったらオレ達に相談するんだぞ」
「うん。わかった」
くまみはそう言って、ハリソコやフクネズミがいるところへ向かうのだった。
広場のところでは、卵の作り物を用意していたハリソコが振り向いた。
「くまみちゃん、おそかったんやね。イースターハントを飾るための道具を作るんや、くまみちゃんも手伝ってや」
「わかった・・・ところで、ハリソコさんはなんでイースターハントをやろうと思ったの?」
くまみがいうと、ハリソコの後ろにいたフクネズミが顔を出した。
「ここへ来る前にイースターハントというイベントを聞きまして、宝探しというのは、ロマンスというものがあります!」
「そうなんだ・・・」
「せやねん。ぐるみぃたちにも楽しもうと思うてな」
ハリソコはそう言うと、また作業を始めるのだった。
それからして・・・。
つぎはぎうさぎの家に一通の手紙で「広場に集まって」と書かれていた。
つぎはぎうさぎは書かれた通りに広場へ集まると、同じように手紙を受け取ったぐるみぃたちが集まっていた。
「へろくまさんも、手紙をもらってたんだな」
つぎはぎうさぎが気づいて言うと、へろくまは感激したように声を震わせた。
「ああ、お前たちもか、まさか妹にもらわれる形になろうとはな・・・」
「嬉しそうだね。へろくまさん」
がんたいねこが言うと、へろくまは顔を真っ赤に染まっていた。
「ここ、小さい字でエッグハントをやりますって書かれているよ。すぐ近くみたい」
「おおお、エッグハントか・・」
ぬいぬいが緊迫な表情を浮かべていると、ハリソコたちがこちらからやって来る。
「みんな、きてくれて嬉しいわ」
「ハリソコさん!」
ハリソコに興味を持ったのか、マスケロが顔を赤くして言う。
「今日はフクネズミとくまみちゃんでエッグハントをやってみたんよ。卵の柄はフクネズミが、飾りはうちとくまみちゃんで作ったんよ」
ハリソコの背中にいるフクネズミが顔を出した。
「ウィ!ではみなさん、一緒に来てください!」
フクネズミがそう言うと、ぐるみぃたちは歩き出す。
しばらくすると、彩られた卵の飾りが置かれている裏庭へ到着した。
色とりどりのある卵にぐるみぃたちは目を丸くする。
「イースターパーティへようこそ!これからエッグハントを始めるで!」
ハリソコがが一回回ってポーズをとった。
フクネズミも、くまみも同じようにポーズをとった。
「ルールの説明を説明するやんね。まずはこのカードに書いてある場所に向かってイースターエッグを持ち帰るんや。全部で5つ!くまみやフクネズミやうちにヒントをもらうのはNGや」
「ご褒美は秘密です!ぬいぬいとがんたいねこさんはちゃんとご褒美を用意してあるので心配ないデスよ」
フクネズミがふっと笑って、ぬいぬいとがんたいねこに呟いた。
ハリソコとフクネズミは犬猫のペット用ぬいぐるみなのだが、どう言うわけかあたりがきついのに対し、今日は一段と優しい。
「イースターエッグは1人1個ですよ!全ての卵はこっちに戻ってきて見せてくださいね!」
「はい、これに入れてきてね」
くまみは人数分あるカゴとカードを1人1人に渡した。
そのカードには
・・・と書かれていた。
「難しそうだねー、一緒に行動しよっか、つぎはぎうさぎさん」
「わかった。がんたいねこさん」
がんたいねことつぎはぎうさぎが顔を見合わせて言う。
他のぐるみぃたちも作戦を考えたりとしていると、ハリソコがリュックサックの中にトランペットを取り出した。
「それじゃあ、準備はいいやんね!」
「OKでーす!!!」
元気のいいぐるみぃたちの声に、ハリソコは頷いた。
「うん、そいじゃ、エッグハント・・・」
「スタートでーす!!!」
フクネズミが大声で言うと、ハリソコはトランペットを吹いた。
ぐるみぃたちは一斉に広場から飛び出すと、つぎはぎうさぎとがんたいねこは、Aのところに行くことにした。
「雨の日に喜ぶ動物がいる場所か・・・・雨の日に喜びそうな動物・・・」
つぎはぎうさぎがうーんと考え込んだ。
「カエルのことかな。雨の日にいそう」
がんたいねこが言うと、つぎはぎうさぎはそれだとばかりに閃いた。
早速、カエルがいる池の方面へ歩き出すと、そこにはマスケロがいた。
「あっ、つぎはぎうさぎさんに、がんたいねこさん!・・・僕が1番ですね」
マスケロがマスク越しにニヤリと笑うと、つぎはぎうさぎとがんたいねこは苦笑いをし出した。
「えーっと・・・イースターエッグは見つかったのか?」
つぎはぎうさぎが言う。
「ええ・・・あそこの草むらの中にありました」
マスケロがそう言うと、池の近くにある草むらの中に、水をイメージしたような卵を見つけた。その周りには可愛らしく花の飾りがある。
「綺麗なイースターエッグだ」
つぎはぎうさぎが自分の分とがんたいねこの分のイースターエッグをカゴの中に入れた。
「あと4つだね。頑張ろう。あ、次はお化けがいる場所だったね」
がんたいねこがそういった途端、思い出した。
つぎはぎうさぎがお化け嫌いだと言うことを・・・。
「・・・後の方がいい?」
がんたいねこが恐る恐るつぎはぎうさぎに言う。
「どのみち行くしかないだろう。お化けがいる場所・・いなさそうに思うんだが、そういえば、お化けの本っていまだにミイパンダが持ってるんだっけ。・・・ああっ!」
「な、なに!?」
つぎはぎうさぎの声に、がんたいねこがギョッとなった。
「ミイパンダの家にあるのかもしれない・・・卵が・・・」
「あるんでしょうか・・・」
マスケロが首を傾げて言う。
とりあえずミイパンダの家に向かうと、ミイパンダの家の前にイースターエッグが置かれていた。
「本当にあった・・・って言うかまだ持ってたんだ」
がんたいねこがおどおどしいイラストが描かれたお化けのイースターエッグをカゴに入れた。
「とりあえず、持ち帰ろう。はい、マスケロ」
「ありがとうございます。・・・えっと、次はオシャレ好きな缶詰と書かれていますが・・・これはどう言うことで?」
「あー、なんかがんたいねこさんが好きそうな場所だな」
「ふふっ、まあね」
がんたいねこはクスリと笑った。
「うーん、多分あそこだと思うんだよねー」
「あそこって?」
つぎはぎうさぎが目を丸くする。
がんたいねこに案内されて来たのは、いろいろな種類のある缶詰が置かれたところだった。
「ぬいぬいがさー、缶詰で秘密基地を作るって話をしててさー」
「秘密基地というより・・・普通の壁に見えるな・・・」
つぎはぎうさぎが壁のように締め付けられた缶詰を見つめながら言う。
すると壁の後ろ側からぬいぬいが現れた。
「壁っていうな・・・・」
「ぬいぬい、いたのか」
「いたのかじゃねえし!あいつら、まだ未完成なのをいいことにイースターエッグなんか置きやがって・・・」
「未完成っつーか、ずっと前から置きっぱなしじゃない」
がんたいねこが大笑いをしながら言う。
「うるさいっ、これからするんだ!」
ぬいぬいが顔を真っ赤にしながら言うと、イースターエッグをつぎはぎうさぎに投げつけた。それをつぎはぎうさぎはキャッチする。
「オシャレなイースターエッグだね。リボンと星のデザインがこう・・・」
「後ろにあったぞ、イースターエッグは」
ぬいぬいが言うと、がんたいねこたちは後ろに回った。
しばらくしてイースターエッグをカゴに入れると、がんたいねこがカードを再度読み始めた。
「次は・・・リボンの子が好きな場所だってさ。くまみちゃんのことを指しているのかな?」
「うーん、そうだな。しかし・・・くまみちゃんが好きな場所ってどこだろうか」
つぎはぎうさぎがうーんと唸ったきり黙り込む。
「パスしましょう。わからないし、次は・・・えっと、夜の思い出か・・・。あっ、ナイトプール!!」
マスケロが前に使った子供用プールでナイトプールを作ったことを思い出した。今は保管室にある・・・・。
それからマスケロたちは保管室に向かう。
「ほら、あそこに・・・あーっ」
マスケロはへろくまに驚いて尻餅をつく。
「っつさいな。びっくりしてしまったじゃないか。・・・マスケロ!?」
「へろくまさんもここへ来たんだな」
つぎはぎうさぎが言う。
「ああ・・・だがイースターエッグはここにないぞ」
へろくまがいうと、がんたいねこはしゅんと、耳を垂れた。
「そっかぁー、ここじゃないんだ・・・夏の夜の思い出・・・あっ、もしかして肝試しのことかも!」
がんたいねこは、前に河原で肝試しをしたことを思い出した。
つぎはぎうさぎはそれを思い出し、びくりとなった。
しかし、その日、くまみはいなかったはず・・・。
「その日はくまみに教えたが、つまらないと言って先に寝た。俺が場所を教えた」
へろくまが言うと、つぎはぎうさぎは耳を垂れさせながら頷いた。
「・・・とにかく河原に行こうか」
つぎはぎうさぎたちが河原に行くと、そこには花の柄のイースターエッグが置かれていた。
「あっ、これだ。本当にあった・・・・」
つぎはぎうさぎが言うと、全員分のイースターエッグをカゴの中に入れた。
「最後はくまみの好きなところなのか?本人に聞いたらいいのか?」
ぬいぬいが言う。
「ダメだね。自分で考えないと」
がんたいねこがいうと、へろくまが目を丸くした。
「俺・・・その場所、知ってるぞ」
「え?本当に!?」
全員がへろくまの顔を見つめる。その眼差しにギョッとなった。
「・・・と、とにかくついてこい」
へろくまはそう言ってぐるみぃたちをある場所まで連れて行くのだった。
「ここだ」
へろくまが言うと、そこは河原から離れたくぼみのある地面。そこに花が咲いていた。
「ここは、俺とくまみ、そしてぐるみぃたちが見つかったところだ」
へろくまが言うと、がんたいねこが頷いた。
「うん。ここって、前に、人間がゴミを捨てたところだね」
「・・・確かに昔、俺もここに捨てられたが・・・」
ぬいぬいが頷く。
「?、何の話をしているんだ」
つぎはぎうさぎが首をかしげると、がんたいねこはふふっと笑った。
「ここはね、始まった場所なんだよ」
「始まった・・・場所?」
「うさぎさんは知らないけどね、ここら辺の花畑は、僕らがここに捨てられて街を作ろうと考えた場所だよ」
つぎはぎうさぎは、信じられなかった、こんな綺麗な花畑が元はゴミ捨て場だったと言うことを・・・。
「お前とマスケロは自力でここに来たけどよ。俺とくまみもだ。旅してたけど、ここに流されて、ミイパンダもがんたいねこもぬいぬいもここに流されて出会ったんだ」
へろくまは花畑に足を踏み出してそう語った。
昔は普通のゴミ捨て場としてぐるみぃが生活をしていたが、今は人間がここにゴミを捨てることはなくなった。
人間はもうここには来ない。
だから動物も人も目がつけにくい、ゴミ捨て場よりも人間がすむ街らしい場所を作ろうとしたのだった。
自分たちが暮らしているそれはゴミの島。しかしここゴミの島とは思えないくらいの綺麗な街だった。
「・・・通りで暮らしやすいと思ったら」
つぎはぎがポツリとそう呟いた。
「気に入ってくれた?」
「がんたいねこさん?」
「くまみちゃん、女の子のぐるみぃがここに来ることはなかったから、張り切っちゃったのかなー、だから昔の話を持ち出して、思い出を振替えようとして・・・・」
「俺はどうでもよかったのに、みんながみんな、暮らしやすい居場所を作ろうと・・・」
へろくまが顔を赤らめて言う。
するとマスケロはあることを思い出した。
「ここにイースターエッグはあるのでしょうか」
「あ、ああ!そうだ、ここだと思うんだが、あっ」
へろくまは花畑の周りを見渡すと、その中心にカラフルな卵が置かれていた。
「近くにあった・・・やっぱりここだったんだな・・あいつ・・・」
へろくまは涙をこらえながらイースターエッグをカゴの中に入れたのだった。
それから、ぐるみぃたちは急いで広場へ戻って行く。
しかし・・そこにいたのはミイパンダだった。
「おっ、お前ら遅かったな!はっはっは!俺が1番だ!!」
ミイパンダがすべてのイースターエッグをお手玉のように見せつける。
「まじか・・・1番だったなんて・・・」
ぬいぬいが頭を抱えた。
するとハリソコとフクネズミが拍手をし出した。
「ハイッ!みんなが来たと言うことで、イースターハントは終了です!優勝はじゃん!ミイパンダに決定ー!!優勝者には素晴らしいものを贈呈しますー!」
ハリソコがいうと、くまみがタスキと冠を持ってきた。そしてそれをミイパンダにつけた。
「はいはーい!質問!もしも優勝者が僕とぬいぬいだったらどんな優勝品を贈呈してくれるんですかー!」
がんたいねこがいうと、フクネズミがふっと笑った。
「ああ、がんたいねこさんとぬいぬいさんには、四つ葉のクローバーを見つけたんやけど、それを贈呈してやろうと思ってなぁ」
「・・・ふーん・・・地味」
ぬいぬいがつまらなさそうにポツリというと、がんたいねこが顔を赤らめた。
「ううん、とても素敵な優勝品だね!ありがとー、あっ、でも、他の人が優勝したらどんなのかな?」
がんたいねこがいうと、ハリソコが頷いた。
「くまみちゃんにお祝いのチューがもらえるんやけど」
「あと、私たちが作ったお祝いケーキのプレゼントもデスよ」
フクネズミが簡単にそう説明すると、ハリソコの後ろには卵の形をした大きいケーキが置かれていた。するとへろくまが信じられないような顔をした。
「ん?ん?ちょっと待って!?いまっ、お祝いのチューって言ってなかった!?」
「そやけど、くまみちゃんはここのアイドルやし、その方が喜ぶかなって」
「んなわけない!俺が許すものか!!」
へろくまが顔を真っ赤にしながら怒鳴った。へろくまだけではない、ぬいぬいも顔を真っ赤にして頷いた。
「で、お祝いは?お祝いのチューは?」
「黙ってろ!ミイパンダ!!」
お祝いにそわそわするミイパンダにへろくまとぬいぬいが怒鳴りつけた。
それに対し、その姿を他のぐるみぃたちは温かく見守っていた・・・。
その夜。片付けが終わり、くまみとハリソコ、フクネズミは女子会を開いていた。
「それにしても、楽しかったデスね。イースターハント。楽しんでくれて本当に良かった」
「そやね。みんなが探している間にうちらがケーキを作って、喜んでくれやたね。ミイパンダさんも」
そう楽しそうに話すハリソコとフクネズミにくまみも頷いた。
「それにしても・・くまみちゃんがぐるみぃの街の思い出をテーマにしたパーティをやりたいっていうもんやからびっくりしたわ」
「くまみちゃんの昔話を聞いて、本当に良かったです。本当にロマンがありました」
「ハリソコさん・・・フクネズミさん・・・」
くまみはやや顔を赤くした。
「ここのぐるみぃの街はいろんな思い出、あるから・・・また話したい。あ、でも、先にハリソコさんとフクネズミさんの話も聞きたいな。今度は2人をモデルにしたイベントをして」
「私たちのモデルですか?やだなー」
「そや、うちらは普通に捨てられて当てもなく旅してた、ただのぬいぐるみですわ」
あははと笑いながらぐるみぃの女子会は続いた。
その中で夜空のお月様が綺麗に輝いたのだった。
0コメント